
イギリスでの学び
2018年から2020年まで、イギリスの、ケンブリッジにあるAnglia Ruskin Universityで MA Music Therapy を学びました。
イギリスでは、音楽療法士の養成は大学院レベルで行われています。HCPC(Health and Care Professions Council)が認可する課程を修了し、HCPCに登録することで、Music Therapistとして活動することができます。
日本で音楽療法を学んでいた頃から、イギリスの音楽療法の理論や実践に触れる機会があり、いつか現地で学んでみたいという思いを持っていました。夢でもありました。実際に留学するまでにはずいぶん時間がかかりましたが、英国での2年間の学びと臨床実習は、現在の私の音楽療法の捉え方に大きな影響を与えています。
音楽療法を学ぶということ
私が学んだコースでは、音楽療法の実践だけでなく、心理療法的・精神力動的な視点を含むさまざまな理論について学びました。
音楽療法には一つの考え方だけがあるわけではありません。臨床心理学や精神力動的な考え方、神経科学など、異なる視点に触れながら、実際にクライエントと出会ったときに何が必要なのかを考えていきます。
すべての理論を完全に理解することはできませんが、臨床の中でその人のニーズや状況を考えるために、いろいろな「引き出し」を持っておくことの大切さを学びました。
Self-development ― 自分自身を知ること
英国でのトレーニングで特に印象に残っているのが、self-development(自己理解)をとても大切にしていたことです。
英国の音楽療法士養成では、self-developmentが重要な要素として位置づけられています。現在のBAMT(British Association for Music Therapy/英国音楽療法協会)のガイダンスでも、訓練期間中にpersonal therapyを受けることが必須とされています。これは、大学の講義とはまた別です。
私自身も、訓練期間中に継続的にセラピーを受けました。クライエントについて学ぶ一方で、自分自身が何を感じ、どのように相手と関わっているのかを振り返る機会が設けられていました。相手との関係の中で生じる自分の感情や反応も、臨床を理解するための大切な手がかりになります。
セラピーを受ける側になり、「どのくらい相手を信頼できるのか」「どのように自分のことを話せるようになるのか」を自分自身で経験したことは、その後クライエントとの関係について考えるうえでも大きな経験になりました。
Placement ― 臨床実習
私にとって、英国でのトレーニングの中でも特に大きな学びとなったのが、clinical placement(臨床実習)でした。
訓練生であっても、実習先では一人の大人として、またチームの一員として扱われます。現場へは基本的に自分で向かい、セッションの準備や実践、記録などに取り組みます。
実際にクライエントと出会い、音楽を使って関わる中で、授業で学んだ理論が初めて具体的な意味をもって感じられることもたくさんありました。
Supervision― スーパービジョン
実習では、定期的にスーパービジョンを受けました。
英国で経験したスーパービジョンで特に印象に残っているのは、何か一つの正解を教えられる時間ではなかったことです。
スーパーバイザーから考え方を押し付けられるのではなく、自分が臨床の中で何を感じ、何を考え、どのように理解しようとしているのかを一緒に考えてもらう時間でした。
自分自身の考え方や個性を尊重してもらいながら、臨床をより深く考えていく。この経験は、現在、私自身が実習や学びに関わるときにも大切にしたいと思っていることの一つです。
支えられながら学ぶ
留学前は、英国の音楽療法のトレーニングはもっと厳しく、怖い場所なのではないかと思っていました。
実際には、私が経験したのはむしろ、何重にも支えられながら学ぶ環境でした。
Tutor、臨床について考えるグループ、personal therapist、そして実習先のsupervisor。さまざまな専門家との関係の中で、自分自身も支えられながらクライエントとの関係について学んでいきました。
時にはうまくいかなかったり、悩んだり、涙することもありました。それも含めて、療法的な環境の中で約2年間を過ごしたこと自体が、大きな学びだったように思います。クラスメイトの半分が留学生(international student)だったのも助け合える環境でよかったです。
今につながっていること
英国での学びを通して、音楽療法を「音楽を使って何かをすること」だけではなく、音楽を介して人と人との間に何が生まれているのかを考えることとして、より強く意識するようになりました。
クライエントとの関係、その場で生まれる感情や体験、そして音楽の中で起きていることを丁寧に考えること。
精神力動的な考え方は、現在も私が音楽療法を考えるうえで大切な背景の一つになっています。ただし、一つの理論だけに当てはめるのではなく、目の前の人に何が必要なのかを考えながら、さまざまな視点を持っていたいと思っています。
英国で経験した臨床実習やスーパービジョン、そして支えられながら学んだ経験は、現在の臨床だけでなく、教育現場にもつながっています。

イギリスで音楽療法を学ぶことを考えている方へ
このページでは、私が2018〜2020年に学んだ経験をもとに紹介しています。養成課程や応募条件、英語要件などは変更されることがあります。最新情報は各大学、HCPC、BAMT等の公式情報をご確認ください。